そういえばこれまでのキャリア

以前同僚だった岡島さんの著書「抜擢される人の人脈力 早回しで成長する人のセオリー」を遅ればせながら読ませていただいた。

岡島さんご自身の人柄どおりの親しみやすくて読みやすい体裁と文体の本だが、中身はなかなか骨太な本だった。
プロフェッショナル、あるいは岡島さんの言葉を借りれば「クリティカル・ワーカー」(新しく問題解決に取り組み、どんな形にしろ、ブレイクスルーを伴う試みをする人たち)をいかに開発するかについて、シンプルだが興味深いモデルが提示されている。

さて、全く成功事例ではないのでサンプルとしては不的確だが、岡島さんが提唱されているフレームワークを使いながら、私自身のこれまでのキャリアを振り返ってみた。

1: 自分にWillのタグをつける本当は研究者になろうと思っていたのだが、あえて思うところがあって社会人になった私は、今考えると相当「面倒くさい新入社員」だったような気がする。というのも、昨年、20年ぶりに会った私の研修時代のメンターだった方から、私の研修時代の日誌の記述が多くて、読むのが大変だったという話を聞いて、すっかり忘れていたが、そんな昔の自分を再認識した次第である。
そんな調子だったので、入社してから5年目くらいまでは、降ってくる膨大な仕事に忙殺されながらも、上司や先輩、同僚に、「自分はもっと社会を良い方向に変えるような、影響力を持つ仕事をしたい」という漠然とした野心、というよりは妄想の類を、結構話していたような気がする。
きっとそんな話にうんざりしたのだろう、入社5年目の頃、当時の上司から、「だったらやりたいことをきっちり提案してみろ」と言われたことから、問題意識を同じくする社内の仲間で「インタラクティブマーケティング」をテーマとした研究会を立ち上げた。
1992年の終わりの、当時のゴア副大統領が「情報ハイウェイ構想」を発表する直前の頃である。


2: 仲間を広げる→コンテンツを作る
当時「マルチメディア」を呼ばれる領域に関連するクライアントの広告・広報作業の経験を通じて、この世界に「何かあるな」と感じていた仲間8人で、「マルチメディアをきっかけとした社会と企業コミュニケーションの変化」をテーマとした研究会を立ち上げ、その仲間とクライアントへの自主提案やマーケティング専門誌への投稿などの活動を始めた。


3: コンテンツを作る→仲間を広げる
上記の研究会の活動がきっかけで、日本の中で初期にあたる企業ウェブサイト開発のプロジェクトに携わり、それが起点となり、ウェブを介した顧客参加型商品開発、CRM、ネットビジネスの事業開発と、携わるプロジェクトの領域がどんどん広がっていった。
そして、そんなプロジェクトを通じて、単なる仕事のつきあいを越えた、専門領域は異なる(クライアント、プロデュース、クリエイティブ、テクノロジー、アカデミズム...)が、「目指すものが同じ」仲間が徐々に広がっていった。
1990年代中盤から後半の頃である。


4: 自分にSkillのタグをつける→コンテンツを作る→仲間を広げる
そんなインタラクティブマーケティングの初期の時代を楽しんだが、次第に「もっとクライアントの重要な意志決定でお役に立てるような仕事をしたい」と思うようになり、そんなことから海外への留学を考え、着々と準備を進めた。
が...応募用のエッセイを準備しているうちに、いろいろ考えるところがあり、方針を転換して、「インターネット・マーケティング」の専門家に特化して、行けるところまで行ってみることにした。
そんな考えから、最初に入社した会社を辞め、「インターネット・ビジネス」に特化したコンサルティング/インテグレーションの会社の立ち上げに携わった。
その会社でも、チャレンジングだがやりがいのある大型プロジェクトに携わることができ、さらに仲間が広がっていった。
2000年代の初めの頃である。


5: 自分情報を流通させる
そんな頃、それ以前から一緒に仕事や研究会をやっていた仲間と一緒に「インターネット・マーケティング」や「ネットビジネスモデル」に関する本を書いたり、講演をしたりするようになった。


6: 自分のSkillのタグを見直し、Valueのタグを模索する→コンテンツを作る→仲間を広げる「インターネット・マーケティング」の専門家として自らの立場が確立するとともに、「もっとクライアントの重要な意志決定でお役に立てるような仕事をしたい」という思いが戻ってきた。そして、自らがありたい姿になるために異なる能力と経験が必要だと思うようになった。
そこで、一度「インターネット・マーケティング」の世界から離れ、戦略コンサルティング会社に移り。地道に能力を養い、経験を重ねた。
そんな時代に出会い、お互いに助け合った仲間とは、現在でも深いつながりが続いている。


7: 自分のValueのタグをつける→コンテンツをつくる→仲間を広げる
戦略コンサルティングの業務の経験を重ねていく中で、次第に自分が"何を通して"「もっとクライアントの重要な意志決定をお手伝いさせていただけるような仕事をしたい」のかがはっきりしてきた。
その考えに基づいて、今の会社に移り、その中で新規事業を立ち上げ、実績を重ね、一緒にその事業に取り組む仲間を集め、彼ら・彼女らを育て、同時に私も育てられた。そして、その仲間とともに、その事業に特化した会社を立ち上げた。2年前のことである。


8: 自分情報を流通させる
その会社において、さらに実績を重ね、仲間を集め、育てるとともに、そこで生まれた実務の知をアカデミズムの知に変換し、あるいは、アカデミズムの知を発掘し、実務の問題解決の知として活用する、そんな二つの種類の知を横断しながら、著作活動や講演活動も行っている。

ここまで見てみると、「自分にタグをつける」→「コンテンツを作る」→「仲間を広げる」→『自分情報を流通させる」というスパイラルを繰り返しながら、少しずつ「ありたい自分」に近づいてきたような気がする。その一方で、「チャンスを積極的に取りに行く」という部分は...まだまだこれからかな、とも思った。

というわけで、この岡島さんのフレームワーク、なかなか堅固なモデルである。
これから「ありたい自分」を目指す方には、ぜひともお勧めです。