そういえばJACS

昨日から二日間にわたって日本消費者行動研究学会の「第39回消費者行動研究カンファレンス」に参加してきました。
備忘録として、特に印象的だったものを以下整理しておきます。

  • これまで「リアル」においてのみ研究されていた領域において「ネット」を対象にした実証研究が出てきた
    • 東京国際大学の山本奈央先生は、インターネット上のブランド・コミュニティへの参加のブランドロイヤルティ向上への影響を、自動車メーカーの会員制サイトへの登録者に対する調査をもとに明らかにした
    • 東北大学の澁谷覚先生は、周辺的な手がかりが、詳細な情報の中身を検討する段階でも購買行動に影響する(例: レビューを書いているのがどのような人かを調べて内容を確認)という、これまでのモデルからはパラドキシカルな消費者行動に注目した
    • 上智大学の杉谷陽子先生は、これまで研究されてきた非言語的手がかりの役割、たとえば人がある発言に対して態度を決めるときに、発言の内容よりも、表情や声の調子が影響する(Mehrabian 1981)と言われてきたが、ネット上のクチコミにおいては、非言語的手がかりが多いビデオよりも少ないチャットの方がクチコミの内容を記憶されやすいことを明らかにした
    • 慶應義塾大学の清水聰先生は、ネット調査において「興味なし」「無関心」と回答する人々と、従来調査において「興味なし」「無関心」と回答する人々とを比較すると、購買行動がだいぶん異なることを明らかにし、ネット調査活用において情報感度の低い人々を対象とするときに注意を促した
  • 「まずマスメディアでメッセージの周辺的な手がかりをきっかけに興味を持ち、それからインターネットでより詳細な情報の中身を検討する」という「クロスメディア」などでよく語られているモデルに対する批判的な視点が提示された
    • 明治学院大学の宮田加久子先生は、インターネットをよく利用するクラスターとマスメディアと対人サービスをよく利用するクラスターとが、補完的な関係ではなく、むしろ代替的な関係にあり、マスメディアと対人サービスをよく利用するクラスターからは周りの人々にあまり情報が伝搬しないが、インターネットをよく利用するクラスターはインフルエンサーとなり、周りの商品知識がない人々に情報伝搬するメカニズムを明らかにした
    • 博報堂DYメディアパートナーズの勝野正博先生は、同社が行った「メディアライフ密着調査」から、実在する女子高生の生活者の一日のメディア接触行動を参与観察的に撮影した映像をもとに、「携帯電話に没入しながら、その合間にテレビドラマを見る」メディア接触行動を紹介した
    • 電通森岡慎司先生は、成蹊大学の山本晶先生との共同研究から、よく語られているような「インターネット上のインフルエンサーからの伝搬」に対する批判的な立場として、インターネット上でのクチコミが、むしろあまり情報格差がそれほど大きくない人々の間で、共通の話題のベースをもとにしながら「草の根的」に伝搬するメカニズムを明らかにした
  • 店頭プロモーションにおける安易な価格訴求に対するリスクが提示された
    • 慶應義塾大学の清水聰先生は、カレーとビールの店頭陳列方法を対象に、ブランドの訴求メッセージの露出度の高いプロモーションは「聞き耳」消費者を増やすが、価格訴求のみの島陳列のプロモーションは「死神」消費者(そのクラスターのブランドへの支持度が高くなってしまうと、そのブランドの存続が危なくなってしまうような消費者)を増やすことを明らかにした
    • 流通科学研究所の寺本先生は、製品訴求POP付特別陳列による購買体験は、購買者の感情的コミットメントを醸成し、打算的な態度状態を抑制する効果があることを明らかにした
  • 日本のマーケティング研究にとって「新しい切り口」が提示された
    • 早稲田大学大学院の石田大典先生は、苦情対応と公正知覚が顧客満足に与える影響について、過去20年間の研究を、日本のマーケティング研究者においてはまだ使う人がまだ少ない「メタアナリシス」を活用して定量的に統合した
    • 筑波大学大学院の山田尚樹先生や、早稲田大学の竹村和久先生は、fMRI(機能的核磁気共鳴画像法、ドラマ「MR.BRAIN」で九十九先生が使っていた脳の断面を撮影する機械です)を活用した研究を紹介した
    • 専修大学小沢一郎先生は、あるカテゴリーの製品が、コア・ベネフィットに付加的なベネフィットや、製品に対峙したユーザーが創造したベネフィットを加えながら進歩していく様子を、扇子、扇風機、クーラー、エアコンのベネフィットの変遷をもとにしながら解説し、特に製品に対峙したユーザーが創造したベネフィットを取り込むような組織が競争優位の鍵となる可能性を提示した(ちなみにこれは、私の発表した研究に近い問題意識であり、特に興味深かった)


ちなみに私の発表も、発表が終わった後で思ったよりも強くてポジティブな反応をいただきました。特に、近い問題意識をお持ちの方々から発表をきっかけに深い議論を展開でき、今後の研究にとって貴重な示唆をいただきました。
どうもありがとうございました。